この記事では、
”金融庁が生命保険の
手数料二重取りを指摘”
のニュースについて
わかりやすく解説していきます
金融庁の調査
金融庁は、金融商品の販売業者が”顧客本位の業務運営に関する原則”に沿った販売業務を行っているかを定期的に調査し、その結果を公開しています。
顧客本位の業務運営に関する原則
金融機関が顧客の利益を最優先に考えて宣伝や販売などを行うことを求める金融庁が定めた指針
金融庁が指摘した”手数料二重取り”
2024年4月2日、金融庁は2023事務年度上半期に実施したモニタリング調査の中間報告を公表しました。
今回調査の対象となったのは、2022年度の外貨建て一時払い保険、外貨預金の販売額から抽出された地域銀行グループ13先、主要行等6行、保険会社8社です。
その報告書の中に以下のような記述があります。
【ターゲット型保険に関する販売・管理態勢の検証結果】
• 全ての重点モニタリング先で、運用型商品の一つであるターゲット型保険のほとんどが目標値に到達すると解約され、同時に同一商品を同一顧客に販売する事例が多数発生している。
こうした乗換販売によって販売手数料等が二重に発生することを考慮すると、顧客にとって経済合理性があるとは言えない。
販売会社は、目標値到達前に顧客に対して無償で目標値の引き上げが可能である旨を伝達した上で顧客の意向を踏まえてアドバイスするなど、顧客を適切にフォローアップすべき
• 多くの重点モニタリング先で乗換販売の実態を把握していないほか、顧客本位の業務運営を確保する観点からの実効的な検証・監査ができていない
• 全ての重点モニタリング先で、保障・相続ニーズがある顧客にターゲット型保険を販売しているが、少なくとも、中途解約した顧客については、これらのニーズを充たせていないと考えられる
引用元:金融庁「リスク性金融商品の販売会社等による顧客本位の業務運営に関するモニタリング結果(2023事務年度中間報告)」
手数料二重取りの仕組み
手数料の二重取りとは、簡単に言うと、
一定条件で自動解約する外貨建て保険に加入させ、解約後にまた同じ保険の加入を勧めることで手数料を2度発生させる販売手法です。
どういうことか、わかりやすく説明します。
-
目標設定
外貨建て一時払い保険には、
”目標設定”
というオプションがある商品があります。
目標設定とは、
”運用中の保険の解約返戻金が一定の割合に達したら自動的に解約される、円高による損失を避けるための仕組み”です。
外貨建て保険はドルで運用するため、為替の変動により円換算での価値が頻繁に変動します。
それにより、円での価値が高くなった瞬間を逃さずに利益を確定することが、この目標設定のメリットと言えます。
例えば、保険料100万円で運用する保険の目標を120%に設定すると、解約返戻金が120万円に達した時点で自動的に解約となります。
- 円安による目標の早期到達
近年は円安が進んでおり、2020年平均は1ドル106円でしたが、2024年平均は4月現在で148円となっています。
ここ4年間で約39.6%円安が進んでおり、もし2020年から100万円を米ドルで持っていた場合、現在の価値は148万円に増えていることになります。
外貨建て保険で目標設定を105%や110%など低めに設定していた方は、そのほとんどがこの円安により目標にしたと思われます。
- 機会損失
当初の目標額に達したことは良いことですが、果たして適切な目標値だったと言えるのでしょうか。
早すぎる目標達成は以下の2点においては機会損失と捉えることもできます。
- 為替面:今後さらに円安になる可能性
- 運用面:満期までさらに積立保険料が増える
そのため、想定外に早く目標に達してしまった顧客に対して、金融機関がまた同じ保険を勧めるという対応がとられていたとのことです。
どちらかと言えば、金融機関の策略というよりは、近年の急激な円安により結果的に起きたものと思われます。
手数料の二重支払いを避ける方法
- 目標変更
目標の設定を変更することで早期の目標到達を避けることができます。
金融庁の報告書にも、
販売会社は、目標値到達前に顧客に対して無償で目標値の引き上げが可能である旨を伝達した上で顧客の意向を踏まえてアドバイスするなど、顧客を適切にフォローアップすべき
とあります。
目標を105%など低く設定していて円安が進んだ場合、目標値を高く変更することで機会損失を回避できます。
事前に保険会社や代理店に変更の有無と変更方法を確認しておくと良いでしょう。
- 適切な目標の設定
目標を長期運用に適したものにすることで早期目標到達を避けることができます。
以下に5年、10年それぞれ運用した場合の積立保険料、またに米ドル/円レートの損益分岐をまとめました。
1ドル150円で開始したと想定してあります。
5年運用 | 利率2.5% | 利率3.0% | 利率3.5% | 利率4.0% |
---|---|---|---|---|
積立保険料 | 113.1% | 115.9% | 118.8% | 121.7% |
損益分岐点(米ドル/円) | 132.6円 | 129.4円 | 126.3円 | 123.3円 |
10年運用 | 利率2.5% | 利率3.0% | 利率3.5% | 利率4.0% |
---|---|---|---|---|
積立保険料 | 128.0% | 134.4% | 141.1% | 148.0% |
損益分岐点(米ドル/円) | 117.2円 | 111.6円 | 106.3円 | 101.3円 |
以上を見ると、積立保険料は、5年運用では110~120%台、10年運用では120~140%台となっており、運用期間が長く利率が高いほど積立額が増えることがわかります。
逆に、円高による運用期間が短く利率が低いほど損益分岐点が高くなり、マイナスリスくが高まることがわかります。
マイナスリスクを避けるためには、目標値を低く設定するのではなく、利率の高い商品を長く運用することが重要です。
また、目標設定を満期のパフォーマンスよりも高く設定しておくことで、より高い利益を得ることができます。
例えば利率が3%の商品で10年運用すると積立保険料は1.34倍になるため、目標を140%程度に設定することで、円安により10年間のパフォーマンスを越えたタイミングが訪れたらそれを逃さず解約することができます。
解約控除と市場価格調整
金融庁の報告書の中に以下のような記述があります。
金融庁が、代表的な外貨建一時払保険(運用型)8商品の運用パフォーマンスを分析したところ、2023年8月末時点での運用終了分(継続期間2.5年)の外貨建一時払保険は、継続期間5年以上の同保険(又は同種商品に投資する先進国債券の投資信託)と比べて劣後している。
現状の販売・管理態勢の下では、ターゲット型保険を中心に、外貨建一時払保険購入後4年間で約6割の解約等が発生しており、同保険組成時の長期運用前提の想定より契約継続期間が短期化している。
また、解約等に伴い発生する費用が利幅を押し下げている状況(※)が窺われる
※ 運用終了分のパフォーマンスを運用成果要素別で分析すると、積立金増加効果は薄く利益のほとんどは円安で、解約等費用(市場価格調整と解約控除費)がその利幅を押下げ
(中略)
多くの重点モニタリング先で、
「元本毀損するとは聞いていない」
といった苦情が発生しているため、金融庁が、当該保険を販売した287名の顧客カードを分析したところ、全体では2割で知識・投資経験の不足や投資方針との不一致に懸念があった。
苦情が発生した顧客(87名)に限れば、その割合は3割弱となる。
引用元:金融庁「リスク性金融商品の販売会社等による顧客本位の業務運営に関するモニタリング結果(2023事務年度中間報告)」
外貨建て一時払い保険の約6割が4年以内に解約されており、その場合のパフォーマンスが5年以上継続した場合と比べて悪くなっているという内容が書かれています。
つまり、早すぎる解約は非効率であるということです。
その理由として、解約控除と市場価格調整が挙げられています。
解約控除
解約控除とは、
”生命保険を途中解約すると満期までの残り年数に応じて解約返戻金を減額する仕組み”のことです。
一般的には、満期までの残り期間が長いほど減額が大きくなります。
中には契約開始から1年未満での解約は10%以上減額されてしまう場合もあり、そうなるとよほど大きく円安になった場合を除いて元本割れとなってしまいます。
保険商品によっては解約控除がないものもあるため、契約前に必ず確認が必要です。
市場価格調整
市場価格調整とは、
”外貨建保険を途中解約をした場合に、解約返戻金が市場金利に応じて増減する仕組み”のことです。
わかりやすく言えば、
加入当時に比べて解約時の市場金利が
- 上がっていたら解約返戻金が減る
- 下がっていたら解約返戻金が増える
という仕組みになっています。
増減のロジックを簡単に説明すると以下のようになります。
- あなたは100万円で満期10年の生命保険に加入した
- 生命保険会社は100万円で「利回り3%の金融商品」を購入し10年運用を計画
- しかし、あなたは5年目で途中解約することに
- 保険会社はやむを得ず「利回り3%の金融商品」を売却
- しかし、その時市場の金融商品は利回り4%が相場となっており、「利回り3%の金融商品」は定価で売れない
- 結果的に100万円の商品は90万でしか売れず、あなたの返戻金は90万円に減額
市場価格調整は外貨建ての生命保険のみに存在する仕組みです。
また、増減する仕組みなので当然増えることもあります。
しかし、市場金利は年々上がっている傾向があるため、市場価格調整がプラスに働くことは少ないと予想できます。
基本的に、生命保険は途中解約すると損をしてしまうという認識を持っておきましょう。
契約時の説明に注意
途中契約のリスクについてはパンフレットや契約書に必ず明記されています。
しかし、金融機関窓口で担当者から丁寧な説明があるのかと言うと、必ずあるとは言えない現状のため注意が必要です。
現に、私は解約控除と市場価格調整について契約時に説明を受けませんでした。
意図的にデメリットを伏せたい場合もあれば、担当者の知識不足ということもあります。
必ず契約時にリスクを確認するようにしましょう。
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まとめ
- 手数料二重取り=同じ保険商品を短期間に再契約する
- 早すぎる目標到達の解約により、機会損失が生まれる
- 早期の解約はパフォーマンが低くなる
- 契約時にリスクについて確認することが重要
最後までお読みいただきありがとうございました。
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